竹に咲く緋い花

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「竹は数十年に一度花を咲かせる事がある。一輪の花が咲くと、それにつられるように周囲の竹も一斉に花を咲かせ始める。‥‥加那(かな)こういうの好きだよな」 見せられた画面を敢えて口に出して読み上げる拓郎。昔から加那はこういった事をロマンチック!だとか、素敵!だなんて勝手に脳内で都合のいいように変換する癖がある。しかし、今はそんな事よりも竹の花というものが本当に存在していた事のほうが驚愕だった。画面をスクロールし続きを読み進める拓郎の横で、加那が一人で騒がしくしている。 「やっぱりあれは竹の花だったんだよ!しかも数十年に一度って‥‥これは此処に来たご利益かな!?」 ーーほらね! なんて、よく解らないが誇らしげな表情の加那。スキップ交じりに歩く加那の隣でスマートフォンを操作する拓郎の口角が少し上がる。その目はなにかを企む少年のような、どこか意地悪な眼つきへと変わっている。 「昔から竹に花が咲くのは不吉と言われている。まるで感染病のように一斉に花を咲かせはじめ、そして一斉に枯れてしまう。その様はまるで集団自殺を彷彿とさせ‥‥」 「あー!もうそれ以上読まないで。せっかくの気分が台無しじゃない!」 拓郎の唐突な発言に耳を抑える加那。先ほどまでスキップしていたのが嘘のように拓郎をムッと睨み付け、両手で拓郎をポカポカと殴りつける。 「だいたい此処は24区屈指のパワースポットだよ?不吉な事なんてナイナイ!」 「おいおい、皮肉かよ?」 拓郎は苦笑いを見せる。 現在二人が居るのは東京第24区。今から3年前、田舎から上京してくる人間で溢れかえり人口過多に陥った東京は、新たに海岸を埋め立て居住区を作成。24区が新たにその際に追加され、数字が若い程中心地に近く治安も良い土地が振り分けられた為、その逆の数字が振り分けられた24区は治安の悪いイメージが根付いてしまった。そして、そのイメージが惹きつけるかのように実際の治安も徐々に悪化していったーー。 二人が今居るのは24区、東京の端に位地。拓郎は24区に住んでいる。が、加那は11区に住んでいる。こんな所へと足を運んだのは、此処がパワースポットと呼ばれる場所だからだ。最近パワースポットに嵌った加那からの連絡で、ボディーガードという名目で呼び出されたのが拓郎だ。
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