0人が本棚に入れています
本棚に追加
答えられなかった。だって、ただ手柄を取ることだけしか考えてなかったから。恥ずかしくて、答えられるはずもなかった。
同期なのに、彼は一歩も二歩も先を言っている。
黙ってしまった私の手から、彼は新聞を取り上げる。
「新聞は僕がやっておくから、やらなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「でも私、取材はおろされて――」
「簡単に諦めるんだ? 友達に誤解させたままで。あんなに張り切っていたのに、朝未さんは何をしたかったの?」
――私は何をしたかったの? スクープを取りたかった?
ううん。違う。
中野さんに認められたかった? そうだけど、でもそれだけじゃない。
ニュースと真摯に向き合う中野さんのようになりたいと憧れた。
……それを忘れていた。
「ありがとう。私、頑張ってみる!」
私は中央の円卓に放置されていた火事の新聞コピーを取り、それを片手にパソコンの前に居座る。
報じられていること。ネットでの評判。気になることをノートに書き込んでいく。大型掲示板では、推理合戦が行われていたりもした。やはりタッキーが犯人なのではないかという声が大きい。本人やその友人のSNSなどをサルベージしている人もいる。明らかに楽しんでいる。
「こんなことされたら……そりゃあ嫌いにもなるよね」
さすがに罪悪感を抱き始め、ページを閉じようとしたとき。目に入ったSNSのやりとりに、私は違和感を覚えた。SNSについてのやりとりが始まったところまでスクロールをして戻り、真剣に記事を読み始める。
何時間かして、月曜班の皆が帰ってしまった後にようやく理解した。
こんな画面を通しては、真実は見えない。所詮誰かの意見なのだ。
私が知っている昔のタッキーのこと、林くんのこと……そういう実際に見たものは、決して出てくることはない。
「そっか、現場での取材と、編集されたものの違いなんだ」
編集してしまえば、“事実”はどうにでもなってしまえる。編集するということは、どう伝えるかということだ。
私はもう現場を見てしまった。そしてタッキーがそんなことをする人ではなかったということを知っている。この事件を編集するのは中野さんだけれど、私はそこに口を挟むこともできる、……まだできるはずだ。
「そうと決まったら!」
私は共有物の詰め込まれたロッカーを開き、目的のものを持ち出すと、帰り支度を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!