O.Aガール!

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 再び懐かしい故郷へと舞い戻り、闇の中、私は不自然な様子を見せないように、林酒店の近くに身を隠す場所を探してそれとなく辺りを窺う。しかし住宅街の中、小さな道路に面したお店。身を隠せそうな場所などなかなかない。幸いなことに、店の近くにT字路があり、その陰にしゃがみこんだ。  カメラを起動させてはみるが、暗闇では使えそうにはなかった。  仕方なく、じっと店を出入りする姿がないかどうかを見張る。店のシャッターは閉じられているが、その脇に勝手戸のような小さな出入り口があるのだ。  大型掲示板で特定されていたタッキーのSNSによると、タッキーは何かをきっかけにひきこもる生活を送っているらしかった。それでも誰かと頻繁に友達らしき人物とやりとりをしていた。それが誰かということは特定されていなかったけれど、私には会話のやりとりを見て心当たりがあった。  それが林くんだ。  その会話はごく最近まで行われていた。だとしたら、林くんはタッキーの行方を知っている可能性もあるかもしれない。もしくは……。  テッペンを回って、私のお腹はぐうと鳴った。買っておいたおにぎりを取り出す。  こんな一夜漬けで何か見かけることができるとも思わない。だけれど、私は気になって、それを他の誰かに先に見つけてほしくはなかったのだ。それは功名心でもなんでもない。ただ真実をありのままに伝えたいという思いだ。  そのとき、小さな音を立てて、林酒店のガラス戸が開いた。ジャージに目深に被ったニット帽と大きなマスクで顔は隠れている。身長は林くんと同じぐらいだけれど、本当に彼だろうか。よく見ようと身を乗り出したとき、膝の上に抱えていたコンビニのビニール袋が音を立てた。  店から出てきた人物は、はっとこちらを振り向いた。 「……タッキー?」  中学生の頃の面影があるかどうかなんてわからない。だけれど、私は自然と声をかけていた。  本当にタッキーだったかどうかはわからない。だけれど彼は慌てて店の中へと入っていった。すぐに同じ格好をした林くんが顔を出した。 「何やってるんだよ。ストーカーかよ」 「ねえ、今のはタッキーじゃないの?」 「俺だよ。不審者かと思って一度引っ込んだだけだよ」  そんなの嘘だ。私が名前を呼びかけてから家の中に戻った。
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