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「ねえ、なんで嘘をつくの? タッキーが犯人だから? かくまってるの?」
「共犯ってか? 昼間の腹いせに俺にまで罪をなすりつけようっての?」
「違っ――」
マスクを片耳にかけた林くんは、電話を耳に当てたまま私のいる方向を睨みつけていた。誰に電話をしているのか。今出てきたのはタッキーではなかったのか……様々な考えが頭を巡りながらも彼から目が離せないでいると、パッと私は後ろから光に照らされた。
光は懐中電灯のようだ。眩しさに目を眇めた私に問いが投げかけられた。
「君、こんな夜中に何をしてるの?」
交番なんて、落とし物としたときか、道を訊ねる時に来るものだとばかり思っていた。まさか自分が不審者として尋問されるなんて……。
「おまえは、ったく……」
本当に呆れたとき、ひとは怒ることも嘆くこともしないのだとわかった。無表情か、微かに眉を顰めるだけだ。
「補導されるガキか」
「……すいません」
お巡りさんは調書を取っていた紙に何かを書き込みながら、こちらを見ずに言った。
「迎えが来たから帰っていいよ。いくら仕事だって、女の子がこんな夜中に一人で出歩くのはやめたほうがいいよー。この前の犯人だって捕まってないんだからさ。ね」
はい、さよならーと軽い別れの言葉と共に交番を跡にする。
しばらく無言で夜道を中野さんと歩く。身元引き受け人を、と言われたとき、最初に浮かんだのが彼だった。今は、やや後悔をしている。けれど……。
「それで、何かわかったのか?」
「え?」
第一声は小言がくると思っていた。それなのに、彼は先ほどの呆れさえ見せず、夜の闇に混じるような小さな声で問うてきた。
「何か思うことがあったから、こんなことしたんだろう?」
どうして……私は見放されたのではなかったのだろうか。
「……SNSで、タッキーと誰かが頻繁にやりとりしてることが貼られてたんです。私にはその相手が林くんだと思いました。中学時代の思い出っぽい書き込みもあったから」
「匿ってるんじゃないかと?」
私はこくりと頷いた。
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