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「林くんの様子も、いくらマスコミが嫌いだとしても不自然なものでした。昔のことしか知らないけど、彼はちゃんと平等に意見を聞いて判断をする人だったんです」
「だとしても、先走りすぎだぞ。チーフにも知らせてないんだろう?」
「う……すみません」
怒られるだろうか。やはり怒られるだろう。勝手に張り込んで、警察沙汰になって。
しかし中野さんはくっくっと口の中で笑いを噛み殺している。
「しかし、おまえ意外とへこたれねえな」
「へ?」
「人を呼び出しておいて、何も掴めてねえなら、チーフからの大説教だな」
「黙っててもらえるんですか!」
「ってことは、何か掴んだな?」
私を見下ろす中野さんの目は、獲物を見つけた鷹のように鋭く光っていた。
これだ。この視線から、私が憧れていた“報道”が生まれるのだ。
だけれど……私は旧友を売ることになるのだろうか。ゴミとかクズとか言われる腐った報道陣になるのだろうか。
「おまえが不安になってることはわかる。でも報じるべきは“真実”だ。まだ俺たちはその真実の片鱗しか見ていない。想像を断言するな」
中野さんの言わんとすることが初めてわかった。
私たちは警察でも探偵でもない。事件を推理する立場じゃない。
合ったことを誇張も偽りもなく、世間に広しめることが仕事だ。
そのための取っかかりを私は手に入れた。けれどまだそれで全てがわかるわけじゃない。
「本人に訊きたいです。訊いて見せます。何が起きたのか」
中野さんはようやく満足そうに微笑を浮かべた。
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