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極秘取材、秘密裏の編集。全ては林くんの家で。私は一度局に戻り、今までの取材テープをパソコンで編集できるデータ様式に変換して、また林くんの家へと戻ってくる。その頃には、タッキーの緊張も少し薄れていたようだ。中野さんとなんだかよくわからない話で盛り上がったりもしていた。
作業が終わったのは日曜日の夜中。
それを社に持ち帰り、密閉ブースでチーフに見せる。むっすりとしたまテープを見ていたチーフは、終わると同時に立ち上がる。
「すぐに音入れ、テロップ入れ直してトップニュースに間に合わせろ」
「え、でも編集はもう手を入れないっていう約束で」
「馬鹿。こんな特ダネにこんなチープな音楽と文字で流すやつがあるか!」
「は、はい!」
『現場から逃げた男の目撃談がありますが、それはあなたですか?』
胸下の画像なんかじゃない。真っ直ぐにカメラを見返すタッキーが映っている。
『はい』
きっぱりと答えた彼に、中野さんが真っ向から斬りつけるような質問を重ねる。
『火を付けたのも?』
タッキーは静かに首を振る。
『いえ、それは僕ではありません』
『それならどうして逃げたのですか?』
彼は一瞬黙り込んで、きっぱりと答えた。
『殺されると思ったからです。……油を撒いて火をつけたのは、母です』
番組が始まるや否やこの映像が流れると、スタッフルームには電話が鳴り響く。オンエア中の電話を取るのは次の曜日班の仕事だ。状況が把握できないままに翻弄される様を横目で申し訳なく思いつつ、私はフリップの準備に、大型コーナーの準備にと走り回っていた。
今頃、タッキーは警察の取り調べ室にいるはずだ。この放送を見た彼の母親にも手出しはできないだろう。
家族の愛憎が面白おかしく描かれているわけではない。起こった出来事を真摯に淡々と語っている。それなのに、なぜか心打たれるものを感じる。私も編集補助をしていたはずなのに、改めて放送されている映像を見て、目が熱くなった。
追従する他の番組が、この事件をどのように扱うかどうかはわからない。少なくとも、私たちは真実を語ってくれた勇気ある旧友たちに報いることができたと自負している。
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