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煌びやかな世界だと思っていた。
芸能界の人々を間近に、日本で起きていることの最前線を追う。
――それが甘い認識だと気が付いたのは、番組に所属したそのとき。
「もうタイムアップです、谷中さぁん!」
「もうちょい、もうちょい、はい、ドン!」
「ギリなんですってば!」
あと二分でこのVTRは放送される……予定だ。編集ブースは五階。映像送出のマスタールームは二階。今頃同僚がエレベーターを止めて、私の爆走を待っているはずだ。
「はい、朝未ちゃんよろしく」
編集マンに渡されたテープを持って、私は放送ブースに一気に駆け込む。マスターで待ちかまえていた先輩が、私から受け取ったテープを流れるように機械へと差し込んだ。
『まだか!』
サブの怒鳴り声が聞こえてくる。
「いま入りました」
画面の向こうでは、アナウンサーが何事もないように、できたばかりの映像を促した。ナレ録りを事前にできなかったから、ナレーターさんが映像に合わせて、生で原稿を読んでいる。
申し訳なく思いながらハラハラと映像を見守っていると、ディレクターの中野さんがテープを持ってきた。
「これ完パケだから」
どんなに込み入ったネタを担当していても、中野さんんはテロップもナレーションもきちんと入れ込んだ完成品にしてくれる。先輩ADたちからも絶大な信頼感を抱かれ、何よりその切り口が鋭くて、同じネタを扱っていても、中野さんが原稿を書いたものはすぐにわかる。
「じゃあ、頼む」
何気なく去っていく背中を憧れの視線で見つめる。いつかディレクターになれるというなら、あんなふうになりたい。
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