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日中の電車は空いていた。憧れの先輩の隣に座る。これをきっかけに、どうしたら中野さんのようになれるか、秘訣が見つかるだろうか。
「あの辺の地理は覚えているので、任せてください!」
意気込みが溢れる勢いで話しかけるが、中野さんはかったるいといった様子でため息をついた。
「張り切ってるのはわかるけど、そんなに楽しいもんじゃねえぞ」
「え、だって事件ですよ! 取材ですよ!?」
「……本当は連れてきたくなんてなかったよ」
私はむっとして答える。
「それって、私がADとしても新米だからですか?」
「……とりあえず俺の言うこと聞いて動け。面倒なことは起こすな」
中野さんはそれだけ言うと、車窓に目を向けたまま黙り込んでしまった。会話などする気はないようだ。
本当にこれは憧れの中野さんなのだろうか。こんなにもやる気がなさそうなのに?
私はがっかりとしながらも、ぎゅっと手に力を込めた。
――絶対スクープを掴んでやる。そして中野さんにも認めさせてやるんだから!
地元へ近付くにつれて私の心に灯った火は、風に煽られたように大きく燃えさかっていった。
規制線の張られた現場は、一足先に着いていた同業者たちが群をなしていた。昼過ぎのニュース番組のクルーは、生放送の中継をしているようだ。
(現場っぽい! キタコレ!!)
「まずなにをするんでしょう!?」
昂ぶる気持ちを隠すことなく訊ねると、中野さんはゆっくりと辺りを見回す。
「地元で事件が起きて、何が嬉しいのかねえ」
「そりゃあ……少し心配ではありますけど。でも私だからできることだって――」
「……独りよがりだな。カメラもまだだし、目撃者は取り調べ中だろうし……とりあえずは被害者宅のことについての聞き込み。地元なんだろう、被害者を知ってそうな知り合いはいないのか」
「そういえば、被害者って誰だったんですか?」
中野さんの冷たい視線が返ってくる。
一軒家がまるまる焼け落ちた。犯人は不明……ということしかホワイトボードには書いてなかった。中野さんがため息をつきながら速報を印刷した紙を見せてくれる。
「え、これってもしかして……タッキー」
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