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焼け落ちた家の住人は竹本雅恵・その息子の貴志。雅恵さんが買い物に出かけていた折りの事件。貴志ーータッキーは現在行方不明……。
タッキーは少し気弱だけれど、いつもみんなの輪に混じって優しく笑って話を聞いていた。そのタッキーが行方不明。そして現場から走り去った男の姿。……最悪の想像に背筋が凍る。
旧友が事件に関わっているかもしれない。それをネタとして追う? それが報道? それが仕事?
「おい。家主が親戚の家にいるらしい。インタ撮りに行くぞ」
「は、はい!」
すでに人だかりができていた。フラッシュが幾度となく焚かれ、中心にいる人物に次々と質問が投げかけられる。タッキーのお母さんなのだろう、興奮した様子の女性の声だけがはっきりと聞こえてくる。
「だから! 私は外出していて、何もわからないんです!」
威嚇でもしているような居丈高な様子であるのに、質問には律儀に答えているようだ。
「心配? しているに決まっているじゃないの? 連絡が取れないんだって言ってるでしょう!」
人垣の外から声を聞きながらも、私はタッキーのことを考えていた。
タッキーは今どこにいるのだろう。なぜ、連絡取れないのだろう。
それは事件に関与しているのだろうか。
私は、この事件をどう扱ったらいいの?
――でも、知り合いだからこそ、重要な情報を掴めるとして送り出されてきたのだ。その期待に応えられれば、ディレクターへの道に一歩近付くかもしれない。
そうだ。タッキーはそんなことする子じゃない。それでももし事件に関わっているのなら、……それは私のせいじゃないーー。
「同級生に当たってみるのはどうでしょう。一番親しかった子が、近くでお店を開いているはずです」
「……覚悟はできてるのか?」
「覚悟って……。私だってマスコミの端くれですよ!」
揺れ動く心を見破られたようだった。そんなものは最初からなかったように、私は元気に笑ってみせた。そんな私を見て、中野さんは小さく口を動かした。
「……やっぱり連れてくるんじゃなかったな」
その呟きは、やけに大きく耳に届いた。
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