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記憶の糸をたどって、タッキーの親友だった林くんの家――林酒店へと向かった。現場から少し離れているため、まだ報道陣はここへ押し寄せてはいないようだ。古めかしい木枠のガラス戸を開けて、店の奥に声をかける。
「すみませーん」
「はいはーい、いらっしゃいませー」
出てきたのは林くんその人。家業を継いでいるのだろう。弾けるような爛漫な笑顔は昔の面影を残したままだ。
「林くん、覚えてる? オナチューだった朝未だけど」
「アサミ……あーあー、韓流の朝未な!」
中野さんの視線を感じ、私は思わず言い訳をする。
「母親が見てたから、一緒にはまっちゃったんですよ……」
「引っ越したって聞いたけど、何、戻ってきたの? その人旦那さん? どうぞ林酒店をご贔屓に!」
「違う、違う! 仕事で来ただけ!」
「仕事って……営業か何かか?」
「いやぁ……タッキーのことで、ちょっと」
私は慣れない手つきで名刺を取り出した。
「竹本のこと……?」
林くんのテンションが急に静まった。逆毛だった猫のようだ。
じろじろと私たちの姿を眺め、私の持っている袋に書かれた局名に目を留めると、苦々しく言葉を吐き出した。
「帰れ」
「少しでもいいんだ。最近のタッキーって――」
「そうやっていつも人のこと探ってるんだろう。おまえがマスゴミになってたなんて思わなかったよ。帰れ!」
トンと肩を押され、受け取られることのなかった名刺が床に落ちた。私はよろけながら店の外へと追い出される。
「嫌いなんだよ。人の私生活にまでズケズケと踏みにじって、あることないこと喚き立てるマスゴミなんか」
「私は……」
突き飛ばされたことよりも、その容赦ない敵愾心に、何が起こっているのか認識できなかった。
「……そんなつもりじゃ」
「竹本のことなんてしらねえよ。これで満足だろう。とっとと消えろ」
ぴしゃりと戸が閉まる前に、迷惑なんだよという声が聞こえた気がした。
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