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私は閉じられた戸を呆然と眺めたまま、何が起こっているのかを必死に整理しようとする。だけれど、投げかけられた言葉があまりに苛烈で、脳は自動的に思考回路と感情を殺してしまった。
「ほら、次に行くぞ」
立ち尽くした私に構うそぶりもなく、中野さんは来た道を戻ろうとする。これが報道? これが仕事? 顔を上げることなどできず、何かを求めてコンクリートを視線がさまよう。
「なんであんなこと!」
私の叫びに、中野さんの足が止まった。
「私たちだって頑張ってるのに! 知りもしないであんなこと言われなくちゃいけないんですか!?」
慰めてほしいのか。そうだよと肯定してほしいのか。とにかく心が前を向くような言葉をかけてほしかった。
だけれど中野さんの口から出たのは大きなため息。
「警察にでもなったつもりか?」
「そんなつもりはありませんけど、でも」
「おまえ、もう今日は帰れ」
そして私の手から荷物を奪い取ると、さっさと現場の方へと立ち去ってしまった。
追う元気はなかった。勇気もなかった。
また知り合いにあんな罵声を浴びせられるかもしれないと思うと、怖くてどうしようもなかった。
電話がぶるりと震える。チーフADからの帰社コールだった。
「わかりました」
私は何も考えられないまま、指示に従うことしかできなかった。
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