転機

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   「なぁ、有沢。」  「お、なんだい智也クン。」  「お前は死ぬ。」  有沢は思わず頬杖を滑らせる。  「ぐおっ。何言ってんだお前?」  「昨日、帰り際にそんなことを言われたんだ。電車の中でだぜ?  しかもその後、あんたには人を引きつける力があるだの何だのって熱弁されてさ。周りの乗客の好奇の目が痛かったわ、ほんと。」  「あらら、そいつはご愁傷様。てっきり、色恋沙汰に疎いあの智也にも春が来たのかと思ったぜ。 大事な会議の前日に、アンポンタンに絡まれるとはなぁ。」  「アンポンタンは酷くないか?」  「だって見ず知らずの誰かに突然、あんた死ぬわよっっ!て言われたんでしょうが。ひでえもんだな。  でも、人を引きつける云々は分かる気がする。」  「なんでオネエなんだよ。そうか?」  「そうだとも。大学生の時なんざ、サークルの活動内容は殆どお前が決めてたじゃないか。」  「いや、あれはお前と柿崎がいっつも張り合ってるもんだから、俺が仲裁に入って取りなしてただけだよ。」  「あー、そうだったな。よく柿崎と喧嘩してたっけ。懐かしいな~」  俺と有沢は学生の頃、例によって同じサークルに所属していた。   その名も観光名所研究会。ある地域特有の観光名所を巡り、その魅力を後世に伝えようというお題目だが、実際はサークル活動にかこつけて、ただ遊びに行くだけである。  当然、名目だけ立派で大した活動もしていないので、俺らが入る前から現在に至るまで非公認のままだ。  ただ、それでもソコソコ人気はあるみたいで、毎年大した宣伝もしていない割に50人近くはいるらしい。    もっとも、旅行だけ来て勝手に別行動を取る奴や、数回来ただけで幽霊部員化した奴が大半だが。  「柿崎が、科学館とか博物館に行って人類の叡智を広めていこう、なんて真面目なことを言ってる一方で、お前はバーベキューだの某夢の国だのって言うんだもんな。」  「柿崎は真面目すぎんだよ。もとより大したサークルじゃないんだからさ、学生の本分を果たそうじゃないかい、なぁ?と。」  「どの口が言うか。お前は不真面目すぎるんだよ!」
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