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「ジョーカー、聞こえますか?」
僕が今日のノルマを終わらせるべくキーボードを叩き始めた途端、扉を叩く音が部屋中に鳴り響いた。
当然だ。だって、鉄の板が折り重なって構成されただけの、四畳ほどしかないコンテナなんだもの。
「いないんですか、ジョーカー?」
ジョーカーというのは僕のコードネームである。今のクライアントが僕に拠点を売った時、半ば強引に付けられたものだ。根無し草の僕にはピッタリなので、案外気に入っている。
轟々と鳴り響くコンテナにうんざりしながらも、億劫そうに向きを変え、振動する扉に手をかける。
「はい。」
「どうも、管理人です。あなたに郵便です。」
扉を開けると、二メートルは確実にあるだろう色白の大男が、陽気な声とともに現れた。身を窮屈そうにかがめて、俺に手紙を差し出してくる。
この男が、僕の拠点の管理人。それ以上でも、それ以下でもない。僕をここまで案内し、クライアントの意向を代弁して便宜を図ってくれた。
あの男の代理人ということは、当然裏の世界の住人なのだろう。相互不干渉という暗黙の了解がここにはあるので、余計に詮索することはしないが。
「どうも。」
「渡しましたからね。それでは。」
管理人はそれだけ言うと立ち上がり、踵を返して立ち去った。
しかし、郵便とはどういうことだろう。僕にはもう両親などいないし、友人の類いは全く縁がない。
まあ、いつも通り下らないダイレクトメールの類だろう。
そう言って中を開けてみると、そこには広告らしき紙束と、一通のハガキが同封されていた。
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