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扉の向こうは、漆黒に満ち溢れていた。
とりあえず開けてみたは良いが、光はどこにも無く、ただ黒洞々たる闇があるばかりだ。
「本当に営業してるのかよ、ここ。」
俺はそう呟きながら、外の光源を頼りにスイッチを探す。すると、扉の傍らにそれらしきものが見えた。
パチッ。屋内は仄かな明かりで満たされる。
そのまま入ってきた扉から前方に目を見やると、簡素なロビーのような部屋が広がっていた。
外装と同様、何の装いも施されていない。奥に一つ、扉が確認できるのみである。
「すみませーん。」
俺は虚空に叫ぶ。
「誰かいませんかー?」
人が現れる気配は無い。
このまま待っていても埒が明かないと判断し、俺は歩き始めた。
とはいえ、そう距離がある訳でもない。直ぐに扉の前に着いてしまった。
どうする、引き返すなら今だぞ。俺は心の中で自問する。
だが、スリルを味わいたいという誘惑には勝てず、俺はノブを回す。会社員は退屈なのだ。
とうの昔に忘れていた好奇心が蘇ったのか、俺は不思議な高揚感を覚えながら、眼前の扉を開け放った。
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