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私の机の前を横切る彼は、黒縁眼鏡のフレームを人差し指で上げながら自分の席へ向かって行った。
彼の背を目で追いながら、自分の気持ちに蓋をするように文庫本を閉じる。
その日の放課後、彼の周りにはいつも女子の姿があるのに、この日はどういう訳か教室には私と彼の二人だけが残っていた。
教室を出るのはいつも私が最後。彼はそれを知っている様な口振りで話し掛けてくる。
「春日美沙……お前、何でいつも最後まで残ってるんだ?」
カバンを背負った彼は自分の机に腰を掛け、純粋無垢な子供のような瞳で私を見つめている。
眼鏡の奥で光るその吸い込まれそうな瞳に視線を合わせた私は頬を赤くし、「別に何も」と無愛想な言葉を返した。
「一人で帰っている所、誰にも見られたくない。友達が居ないって思われたくない。って……馬鹿みたいに騒いでいる女子が言ってたぞ」
私の心を抉るような言葉を平然と言い放つ彼。
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