64人が本棚に入れています
本棚に追加
「何でそんな事……」
私が瞳に涙を溜めながらそう告げると彼は机から飛び降り、私の目の前まで歩いてくる。
彼に悪意は無かったとしても、今の言葉だけは許せない。
私がカバンを肩にかけて走り出そうとすると、彼は私の手首を掴んで引き止める。
「待てよ……。俺、お前を泣かす為にそんな事を言ったんじゃない。俺と一緒に帰れよ」
命令口調で理解不能な事を告げる彼の顔は笑うでもなく、怒るでもなく、ただ真剣な瞳を私に向けていた。
「私を……からかわないでくださ……」
「お前多分、俺の事好きだろう?」
私の言葉を抑え込むように告げられたその言葉は、私の周りから聞こえている音を全て止めた。
運動場から聞こえてくる野球部の掛け声、屋上から聞こえてくる吹奏楽部のトランペットの音色、廊下から聞こえてくる男子生徒の笑い声。
全てが無くなる。
最初のコメントを投稿しよう!