蜜隣ーmitsurinー

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それからの日々は幸せなものだった。 「美沙さ、俺の眼鏡似合うんじゃね?」 そう言って私に無理やり眼鏡を掛けさせる彼。笑っている彼の表情がぼやける。 私が頬を膨らませながら言葉を返そうとすると、彼は私の鼻先にずれ落ちてきた眼鏡をスッと取り、言葉を続ける。 「コンタクトかレーシックにしようと思うんだけどどう思う?」 指先で弄ぶように眼鏡のフレームを触りながら問いかける彼に、「いやだ」と私は即答する。 「蓮の眼鏡姿好きだから、そのままで居てほしい。眼鏡を取った蓮もカッコいいけど、私が好きになった蓮は……眼鏡を掛けている蓮だから」 私が顔を赤らめながらそう言うと、蓮は私の顔を全て覆うように抱きしめて来た。 彼の太い首に私の鼻が触れる。蜜のように甘い香り。嫌な事を全て忘れさせてくれるようなその落ち着く香りに抱かれながら、私は強く願った。 どうかこのまま、二人の時間が続きますように。 それなのに半年後、彼は何も言わずに私の前から去って行った。
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