蜜隣ーmitsurinー

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それから数日間、彼と出会うことは無かった。 息子を幼稚園に預け、主婦仲間とカフェで談笑し帰宅して家事をする日々。いつも通り、なんでもない時間を過ごしていた。 今の夫を選んだ時は刺激なんて求めていなかった。むしろ、結婚生活に刺激なんてあってはいけないと思っていた。 友達のような夫婦関係を築きあげる事で、老後も幸せに暮らせるものだと信じていた。きっと夫も同じように思っているはずだ。 その思いは今も変わらない。でも彼に会ってから、その当たり前の幸せが幻想のように思うようになってきた。 幻想は十年前に彼と過ごした時間の方だと思い込むようにしても、家事や育児をしている時間を虚しいと感じている自分の存在に気付いてしまう。 夫を送り、息子を幼稚園に預けて帰宅した瞬間だけが自分を解放できる瞬間だった。 卒業アルバムを見ながら蜜の香りを思い出す。 「蓮……何でなの?教えてよ……ねぇ」 その時間の私の心は、完全に十年前に戻ってしまっていた。 妻でも母でもない、彼しか目に入っていなかった高校生の頃の私に。
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