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扉を押して開くと、彼は何故かもの悲しそうな瞳で私に近付いて来る。
当たり前のように玄関へ足を踏み入れる彼。こんな場面を近所の人に見られたら、瞬く間に尾鰭を付けた噂となって広まるだろう。
「ちょっ……」
私が戸惑った表情を浮かべている間に、彼は私の顔を見つめたまま侵入し、扉にチェーンを掛けた。
「息子君を迎えに行くまであと一時間あるだろう?俺に少し、時間をくれないか?」
彼はそう言って黒縁眼鏡のフレームを指で触り、靴を脱いでリビングへ向かっていく。
「不法侵入で訴えられても文句は無いわよね?」
「鍵を開けたのは君だ。訴えたいならお好きにどうぞ」
そう言って彼は私が先程まで座っていたソファに腰を下ろした。
テーブルの上には卒業アルバム。彼はそれを手に取り、「懐かしいな」と呟く。
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