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再び自分勝手な事を口にする彼に苛立ちを覚える。
「私も狂わせるつもりなんか無い。今の生活に不満なんて無いし、幸せなんだと思ってる!」
「幸せだと思い込むようにしてるだけじゃなくてか?俺は美沙の前から消えてから、自分は幸せなんだと刷り込むようにしてた。朝が普通に来る……飯が食える……痛みが襲って来ない……普通の人なら当たり前の事でも、俺にとってはその当たり前が幸せなんだと……」
切ない表情でそう告げた彼は言葉を途中で止め、時計を指差す。
「もう……息子君を迎えに行く時間だろう?」
「うん……。来週はクリスマス会だから、今日も新しい歌を覚えて帰って来るはず」
私はブラを着けながら少しずつ母親の顔に戻って行く。
「クリスマスか……。なぁ美沙、俺と再会した事……後悔してるか?」
テーブルの上に置いた眼鏡を掛けながらそう問いかけて来る彼は、とても悲しい目をしていた。
私は静かに首を左右に振り、「会えて良かった」と短く応えた。
それからも、週に一度のペースで罪を重ね続けていく私。
もう止めようと心の中で決めていても、身体が言うことを聞かなかったーーーー。
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