蜜隣ーmitsurinー

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「あっ、いえ……ありがとうございます。新婚さんですか?」 私がそう尋ねると、不思議そうな表情で停止していた女性はすぐに笑顔に戻り、「はい」と言葉を返した。 特に怪しまれていないとわかった私はすぐに話を変え、玄関前にあるキックボードを指差しながら口を開く。 「うちはヤンチャな息子が居るからご迷惑お掛けするかもしれませんけど……」 「いえいえ、私子供好きなんで全然大丈夫です!でも良かった……お隣さんが良い人そうで」 女性はそう言って再び頭を下げる。 そのタイミングで再び後ろの男性に目が行きそうになるが、女性と同じように頭を深く下げ、二言ほど会話をしてから扉を閉めた。 リビングに戻ってきた私は胸を押さえ、一秒毎に早くなっていく心拍数を耳の奥で感じていた。 「堂本(どうもと)……(れん)」 女性の後ろに居た男性。 それは、十年前に私が愛した人そのものだった。 少しクセのある前髪に太い眉、眼鏡の奥に見えた奥二重、何より変わってなかったのは彼から感じる甘い蜜のような香り。 あの懐かしい香りは、高校生の時に彼の首筋に顔を(うず)めた時と何も変わっていなかった。
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