蜜隣ーmitsurinー

久し振りに聞いたその声は、十年前と何も変わっていない。

声が届くと同時に身体を固まらせた私は、言葉を返す事が出来ずに停止していた。

すると、彼は追い討ちを掛けるように話を続ける。

「いやぁ、でも……世間は狭いよな。まさか引越した隣人が美沙(みさ)だなんて」

十年前と変わらず呼び捨てで呼ばれた事で鼓動が速くなっていくが、冷静を装って言葉を返す事にした。

「堂本君は何も変わって無いんだね。でも、私の事を未だに美沙って呼ぶのはよくないと……思いますよ？」

緊張からか何故か語尾だけ敬語になってしまう。

「プッ……なんだよその喋り方。美沙も何も変わってないな。ってかさ、そんな他人行儀な喋り方すんなよ。ご近所さんなんだから、仲良くしようぜ」

あくまで隣人として彼が言っているのは分かっていても、変な妄想が頭の中で広がっていく。