蜜隣ーmitsurinー

6/25
前へ
/25ページ
次へ
窓ガラスに手をかけたまま呆然としていると、再び彼の声が聞こえて来る。 「仲良くって変な意味で捉えてるんじゃないよな?もしかして、旦那とうまく行ってないのか?」 「そんなんじゃない」 そこはすぐに否定するものの、今があの頃よりも幸せだったと胸を張って言えなかった。 「冗談だよ、冗談。まぁ、隣人って言ってもマンションだとあんまり顔合わせる事無いだろう。とりあえず、美沙が元気そうで良かった」 当たり前のようにそんな言葉を掛けないで。あの頃の私の気持ちも知らないくせに。 口に出す事の出来ない想いを打ち消すように、リビングに戻って窓ガラスを勢いよく閉めた。 その時、玄関の扉が開いて夫と息子が帰って来る。 「ママー!」 靴を脱ぎ散らかしてリビングに飛び込んできた息子は私の足にしがみつき、借りたばかりの絵本を見せてくる。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加