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「たっくん、おかえり。あら、その本前に借りなかったっけ?」
「だって好きなんだもん!」
息子の顔を見て、自分が母親であり、家庭を持った人間であることを再認識すると共に、十年前に別れた彼を意識していた数分前の自分に嫌悪感が走る。
息子の頭を撫でながらしゃがみこむと、靴を綺麗に並べ終えた夫がリビングに入って来た。
テーブルの上に乗っている紙袋を見て不思議そうに問いかける。
「これ、もしかしてお隣さんからか?」
「えっ、うん……少し前に挨拶に来てくれて」
「そっか、どんな人だった?良い人そう?」
肩に掛かっていた鞄をダイニングチェアに掛けながらそう呟く夫。
私は目を合わせずに、「良い人だと思うよ」と言葉を返した。
「へー、お返しとかした方がいいのかな?」
「んー、それは大丈夫だと思けど」
無理やり笑顔を作った私は、質問を続ける夫から逃げるように、乾いた洗濯物を持って和室へ向かった。
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