幻想詩

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旅人は老狼を捌いた。 自然の恵みに感謝をするよう、血肉を削ぎ、内蔵を取りだし、麻袋の中に老狼を小分けにして詰める。 その頃には雨もおさまりをみせた。 色を変えようとしている葉から滴が落ちる。 旅人は破壊の運命を皮肉るように眼鏡の奥の眼差しから色を消す。 麻袋の紐を肩にかけ、たまった水を踏み締めて。 名も無き森のその先にある国を目指すと、眼鏡技師に接触した。 狼の毛皮と肉を代償に骨で眼鏡の輪郭を作らせた。 技師はそれを旅人に渡す。 「余ったものは埋葬してやれ」 旅人は骨で作られた眼鏡をケースにいれた。 技師さえ欲しがらない内蔵は怪しげな魔女に売った。 旅に荷物は必要がない。 像の牙で作ったケースに狼の骨で作った眼鏡の枠組み。 旅人は虚空に問い掛ける。 「視えますか?」 その答は旅人だけに聞こえれば良い。 完 20161003
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