芸術評価の基準

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 芸術性とは、時代や流行、その評価する者の感性によってときにはねじ曲がったり、大事であるはずのものが欠けたり、余計なものが付け足されたりして、まるでひとつの生命体のようにうねうねと揺れ動くものです。 リヒャルト・ワーグナーは類まれなる強靭な魂をそのまま投影した作品群を生み出しましたが、かのアドルフ・ヒトラーにワーグナーの芸術作品は信奉され、ナチス・ドイツのプロパガンダとして利用されてしまったのです。  そのため、一時期ワーグナーの芸術性をも批判されたことがありましたが、それはナチス・ドイツが行った非人道的行いの影響を受けてのことです。  独唱、合唱、交響楽、バレエや演劇、体操やフィギュアスケートに至るまで、芸術的な評価や芸術点においての審査には、絶えず明確な指標が存在せず、常に不正や偏見と戦わなければならぬ、という危険にさらされてきました。 人という生き物は、しばしば好き嫌いという単純な理由で、その芸術性そのものを憎んでしまうものなのです。 皮肉なことに、ワーグナーのときには、人種差別を推し進めたナチス・ドイツを否定せんがための芸術性の否定だったのですが。
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