パティスリーショップの少女。

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ショウケースに向き合って、ある一点を見つめる。 明るい夏色のフルーツソース・レアチーズケーキの左隣、オレンジ・プリンのちょうど反対側。透明なガラスの器に入った、涼しげなフルーツゼリーが整列している。 カラフルなゼリーが層を作って重ねられ、黄緑、赤、黄、そしてもう一度黄緑。上にはレモンシロップにごく薄く色づいたゼリーが、おおぶりにクラッシュされてまるで星屑のようにちりばめられている。 うだるような暑さのなかで、何かの拍子にふと感じ取った一瞬のさわやかさを、そのまま閉じ込めたような美しいゼリー。 その一番奥のひとつが、一際美しさを器のなかに閉じ込めて、ひっそりと輝きを放っている。 カウンターのなかに入って、ショウケースの戸を引き、あるフルーツゼリーをそっと取り出す。 動きに合わせてふるふると揺れるレモンシロップ色のゼリーのかけらたちのなか、一つだけが、動かない。 それを指でつまみあげて、薄暗い店内にひとすじ差し込む、夏の光にかざした。 とろけたような白っぽい光が、淡い黄色を纏って、カウンターの上に薄く影を作った。
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