パティスリーショップの少女。

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黒蜜糖刑事はノートの次のページをめくる。 「あなたはこの事件について、どう思われますか」 「どうって……大変だな、というか。そう、ちょっと怖いかなとも思いますね。うちはただのお菓子屋だから、カラメルさんとこと違って高価なものを置いているわけじゃあありませんけど、売上金とか持っていかれたら、ちょっと困りますよね」 「なるほど。それではもうひとつお聞きしますが、昨日の午前ニ時から四時の間にかけて、どちらにおられましたか?」 思わずボールペンを動かす手が止まる。 見上げた若い刑事の瞳は、あくまで、そこに特別な感情は映していないように見えた。 「それってアリバイってことですか」 どこかで聴いたことがあるせりふだった。 それはまるで夜の二時間ドラマのようだ。台本でも読んでいるような気分になる。 私は今、どんな表情をしているのだろう。 和三盆刑事がゆったりとした足取りで店内を横切ってきて、黒蜜糖刑事の肩にそっと手をかけた。 「いやいや、そういうことではありませんよ、失礼いたしました。ご気分を悪くなさらないでください。 その時間帯――ええ、朝の三時から四時位の間なんですが、何かいつもと変わったことはありませんでしたか、このあたりで?」 人の良さそうな柔和な顔つきで、和三盆刑事は尋ねた。 それが本来の彼の性格なのか、業務用に作られたものであるのか、なんとも判断のしにくいところではあったが、どちらかといえば前者のほうを信じたかった。 「いつもと変わったこと、と言っても、カラメルさんとうちとは通りが一本違うし、そもそもその時間は寝ていましたし……」 こくりとうなずきながら、刑事二人はそのまま消えいりそうな言葉の続きを辛抱強く待つ。 「どんな小さなことでもいいんですが」 朝のそういった時間なんて、何か特別な事情でもない限り、大体の人にとって一番眠りの深い時間帯だろう。目の前の二人だって、夜勤でもなければきっとその時間はぐっすり眠っていたに違いない。 しばらく目を閉じて、思案してみる。 しかし熟考したところで、言えることは同じだった。 「すみません、特にないです。なんにも。そもそも昨日は、恥ずかしい話ですが両親にたたき起こされてやっと目が覚めたくらいです。そこで母に事件のことをはじめて聞きました」 「パトカーとかなんだとか、ずいぶんにぎやかだったでしょう」 「はい。でもそれ、夢だと思ってました」
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