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―Ⅲ―
婚約式が済み、親族との食事会が終わると、カリはカルトラとユヅリ邸に戻っていた。
しばらく居間で茶の香りに身を委ねていると、サムナがイズラに送られて帰ってきた。
珍しく、かなり酔っているようだ。
カルトラとふたりでイズラが部屋まで送ってくれ、帰る前にカリはイズラを引き止めて温室に誘った。
イズラの左腕には、カリの色彩を写したような腕飾りがある。
カリはその細工に見入って、素晴らしいですわねと感心した。
「カリ用の腕飾りはどうするんだい?」
「思案中ですわ。せっかくお母様が選んでくださったのに、使わないのはもったいなくて」
「どんなのだい?」
そう言われてカリは、自室からその腕飾りを持ってきた。
「これですわ」
それは全体的に細く、カリの腕に少し大きいくらいの腕輪だった。
「彩石はどうしてる?」
「今日はまだ、隠しに入れていますわ」
イズラは、出されたふたつを見比べて、彩石の形を変えてもいいかいと尋ねた。
「えっ、どうするんですの」
「腕飾りを軸に、彩石を腕輪に変えるんだ。こんな大きなのはやったことないけど、腕輪にはちょうどいいかもしれない。ただ、ちょっと重くなるかも」
カリは瞳を輝かせた。
「このくらいの重さなら、腕にあっても大丈夫ですわ。作ってくださいませ」
これにイズラは頷き、軸となる腕輪に沿わせて彩石の形を変え、ひとつの新しい腕輪を作ってみせた。
その細工には、軸となった腕輪の装飾に繋がる意匠が施されており、腕輪と彩石は、違和感なく融合していた。
「まあ、うつくしいですわ!嵌めてみてもよろしくて?」
「もちろん」
言われてカリは、腕輪に左腕を通して、ぐるりと数回回すと、その意匠や彩石の色合い、重みなどを確かめた。
「ああ、いいですわ。わたくしの惹かれた色合いがどこを見てもありますし、それほど重くもありません。ありがとう、イズラ」
イズラは眩しそうにカリを見た。
左手でカリの右頬に触れ、髪を撫でる。
しばらくそうして時間が過ぎていき、自然と、ふたりの唇が重なった。
やがて、イズラが言った。
「落ち着いたけど、欲が深くなった気がする」
「欲?」
聞き返すと、イズラは困ったように笑った。
そうして、取り敢えず、早く結婚したいな、と言うに止めた。
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