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―Ⅳ―
サリとカィンは、ロアと分かれてユヅリ邸に向かっていた。
カィンは、ずっと気掛かりだった昨日の朝の話を蒸し返すべきか迷っていた。
今のサリに変わったところは見受けられない。
むしろ元気だ。
カィンは、サリの話を興味深く聞きながら、その様子に注意を向ける。
上気した頬に浮かぶ笑顔。
心配そうな顔、きらきらとした興奮した瞳。
話題が変わるごとに変わっていくその表情にいつしか引き込まれ、カィンは心配事を、遠くに押しやってしまっていた。
やがてサリは、話し疲れたのか少し黙って、それからそっとカィンに目を向けた。
「…あの、昨日は…すみませんでしたわ。いきなりその、あの、……てしまって、あの…驚かせてしまいましたし、反省していますの」
一部聞き取れなかったが、昨日の朝のことだと察し、カィンはユヅリ邸に向かって歩き続けるサリの手を掴んで引き止めた。
「反省ってどういう意味?もう俺には頼らないってこと?」
サリは驚いてカィンを見た。
カィンは、少し厳しい目をしてサリを見ていた。
「えっ、あっ、その…」
カィンはサリを引き寄せて耳下の顎を捉えた。
「答えて。俺には頼ってくれないの?」
「えっ、ええっと…」
サリは思ってもみない反応に戸惑い、どう答えてよいか判らなかった。
「サリ」
ひとつだけ判るのは、どうやらカィンを怒らせてしまったらしいこと。
「ごっ、ごめんなさい、わたくし、何か悪いことをしてしまいましたでしょうか…」
言われてカィンは、性急すぎたと反省し、息を吐いた。
「…ごめん。そうじゃないんだ。ただ…ああいうことは、絶対隠されたくないんだ。サリにだけは」
サリは、言われたことをじっくり考えた。
隠しては、いけないこと。
隠すと、カィンを傷付けてしまう?
それはうまく想像できないことだったけれど、サリはカィンの目をじっと見返した。
「カィンに、隠し事はしませんわ」
「また同じことがあったら、頼ってくれる?」
サリは想像してみた。
また同じことがあったら…。
「そのときはやっぱり、カィンを頼ってしまいますわ。ご迷惑でしょうけれど…」
カィンは掴んでいたサリの手を強く握った。
「迷惑とか考えないで欲しい。迷惑じゃないし、なにより、頼って欲しいんだ」
サリは首を傾げて心配そうにカィンを見た。
「頼り過ぎてはいないでしょうか…?」
カィンは強く首を横に振る。
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