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今日は休日の者が多いせいか、通りには人が多く、行き過ぎる人は皆、笑顔で、脅かされるものなど何もないようだ。
いや実際、彼らを脅かすものなどない。
ここはアルシュファイド王国。
たった1人の術者が支える絶縁結界により、侵略されることのない国だ。
「羨ましいですね…」
ぽつりとした呟きに、ファイナが答える。
「羨ましいで終わらせないために、俺たちは行くんです。あまり思い詰めないでください」
ザハリラは頷き、そうですねと言った。
その様子からは、数日前まであった焦りが消えている。
手配が済んだからだろうか?と思ってみるが、どうも違うように思う。
答えの出ない疑問なので、ファイナはゆったりと背もたれに寄りかかった。
採石場まではおよそ2時間なので、やや長い。
その間ずっと、ザハリラは窓の外の景色を眺めていた。
そこには、平和というだけではない、人々の穏やかな生活があった。
やがて着いたのは、ユウフラムという町で、そこからさらに、採石場へと向かう馬車に乗り換えた。
ユウフラムから採石場まではすぐで、ザハリラは馬車を降りてから周りを見渡し、自分の見ているものが信じられずに、ぽかんと口を開いた。
「でかいだろ。もっと近くに行ってみようぜ!」
アルに促されて、ザハリラはその採石場に足を踏み入れた。
周りを森の木々に囲まれて、端の見えない彩石の溜まり場がそこにはあった。
地面から少し盛り上がったそれは、縁を見ると、どうも奥行きがあるらしかった。
「これはどのくらいの深さなんですかね?」
「ちょっと掘ってみようぜ!」
アルが言い、早速足元の彩石を、両手で抱え込めるくらいの広さで掘ってみる。
それは、どんなに掘っても底に行き着かず、アルは結局音をあげた。
「ああ、もう面倒くせえ。一帯持ちあげよっかな」
その言葉にザハリラは目を見張った。
現在持ち上げている量だけでも、大人を数人、並べたようで、それを持ち上げ続けていることが既にすごいのに、面倒くさいとはどういう意味か。
「危ないからそのまま掘ってろ。俺も彩石の泉の底なんて見たことないからな、興味深い」
「だったら手伝えよ!」
「このくらいお前1人で充分だろ。2人でやる方が危ないしな」
「ちっ、仕方ねえなあ、ちょっと本気出すからザハリラ、後ろに下がれ」
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