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―Ⅳ―
昼を過ぎてから、カィンはロアに手合わせしてもらっていた。
ロアは、剣術、体術とも非常に強く、学ぶべきことばかりだった。
また、ザクォーネ王国が水の国ということで、水の奥底にある土の存在の感じ方なども教えてもらった。
「カィンは水も使えるから、俺とは感じ方が違うのだろうな」
「なんとなく解ります。水を介して呼ぶより、直接感じ取る方が、集中を必要とするけど、手っ取り早いです」
敷地内の庭は、土、風、水、火を感じられるようになっており、泉の縁でロアとカィンは、泉の底の石を呼ぶ。
それは水に浮かべたりするのではなく、石の下の土を隆起させて手元に招くのだ。
「どれだけ深くあっても、底に土があれば呼べる。ただし、世界の縁に土はないから、気を付けなさい」
「伯父さんは世界の縁に行ったことがあるんですか?」
「あるよ。俺は土しか使えないからな。ひどく心細かったのを覚えている。手元にあるサイセキと、身内にある異能だけが頼りだった」
カィンは頷いた。
今後行くことがあるかは判らないが、覚えておく。
「それじゃあ、北方遠征は、海上とはいえ、土の力も使えるんですね」
「ああ。だが、今回は、土の力というより、黒土石の特性を利用して、結界の力を強化することになりそうだ」
黒土石とは、最も純粋な土の力を内包するサイセキで、結界構築に対して優れた性質を見せる。
今回、ミナがロアのために採石してきた石も、黒土石が多かった。
そのほかは、美しい黒色が重なる、黒瑙石だ。
ロアとしては黒瑙石の方が手に馴染んだが、使用するとしたら黒土石の方になるだろう。
「伯父さんも気を付けてくださいね」
言われて、ロアはカィンの頭を撫でまわした。
「ああ。ともに無事に帰ろう」
いとしい甥だけでなく、義弟セラムのほか、親しい者たちが旅立つ日は近い。
無事を信じ、また自分も用心せねばなるまいとロアは思った。
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