沸き立つもの

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沸き立つもの

今日は繊(せん)の日。 週の半ばに休みなのは、昨日、ひと月以上にもなる国外任務から帰ったばかりだからだ。 イルマ・リ・シェリュヌは見慣れた自室で起き上がり、素早く身支度を済ませた。 腕時計をはめながら見ると、5時少し前。 外は明るいが、まだ陽は昇っていない。 イルマは姿見の前で自分の前と後ろを確認し、部屋の外に出た。 ここはアルシュファイド王国軍の中枢、黒檀塔。 巨大な岩山をくりぬいて造られた要塞だ。 正面には、世界にただひとつの黒土から成る大陸で最大の湖、レテ湖があり、背後には、アルシュファイド王国双王の1人、政王アーク…アークシエラ・ローグ・レグナの住まう王城がある。 イルマは、まだ人の少ない廊下を颯爽と歩き、鍛練場に出た。 見回してみると、いつもと同じ時間帯なので、見覚えのある騎士たちが多い。 そんななかで、鍛練場の設備のひとつである体練場にいたスティン…スティルグレイ・アダモントが声を上げた。 「おーい、イルマ。こっちでしないか。リザウェラもいるぞ」 その言葉に反応し、顔をあげてイルマを見た、その女騎士…リザウェラ・マーライトは、笑顔になって軽く手をあげた。 もちろんイルマに異存などあるわけもなく、鍛練場の設備の最下層に位置する大鍛練場を回り込んで、彼らのいる体練場へと足を運んだ。 その体練場には他に、アルシュファイド王国国格彩石(さいしゃく)判定師であるミナ・ハイデルを護衛するための騎士の集団、ハイデル騎士団の団長であるムト…ムティッツィアノ・モートンもいて、休みなのに早いなと声を掛けてきた。 「習慣を崩すと怠けますから」 そう返すと、頷いて、いい心掛けだな、と言う。 イルマは体練場を見回して、首を傾げた。 パリス・ボルドウィンがいるのに、セラム・ディ・コリオがいない。 近くに来たパリスに聞くと、アニース…アニーステラ・キャルともども深酒してしまい、今朝は来ないだろうと言う。 「珍しい。セラムが深酒?」 そう言うイルマに、仕方なさそうな笑みを浮かべて、リザウェラが言った。 「アニースにうまくのせられたんだ。見ている分には楽しかったけれどね、今頃ふたりは大変かもしれないな、二日酔いで」 イルマは、私もお酒には気を付けよう、と思い、頷いた。 「さて、5人か。何をする?」 ムトの言葉に、リザウェラが手を挙げた。
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