招待

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       ―Ⅵ―    カリは落胆の色を隠せなかった。 昼食の後も探し、今は休憩のため喫茶店に入っている。 結局、どうしてもイズラの石は見付けられなかった。 あと1時間もしたら帰らなければならないので、もう選別場に行かなければいけない。 選別場でも探すことに変わりはないよとイズラは言うが、やはり自力で探し出したかった。 だが落ち込んでいても仕方がない。 カリはイズラとともに選別場に向かい、腕飾りに使えそうな石を求めた。 「1000カロン以下ですか、それとももっと大きな石?」 係の者に聞かれて、カリとイズラは互いを見合わせて、取り敢えず1000カロン以下の石を見せてもらうことにした。 だが、その数は膨大で、カリもイズラも口を開けてしばし止まってしまった。 「カロンごとに分けているので、婚約石であれば、値段的にも1000カロンが妥当ではないでしょうか」 そこでカリたちは、イズラが見付けた石を選別してもらった。 すると、この石は600000カロン程度であると選別された。 購入したら、6,000,000ディナリもする。 ふたりはこれに、個人所有証明書を発行してもらい、待つ間、1000カロンより大きな力量を持つ彩石を見せてもらった。 その数は、1000カロン以下よりもずっと少なかった。 カリは、何気なく見ていく中で、茶色の交ざったやわらかい色合いの水色彩石を見付けて、胸が高鳴った。 これこそカリが探していた色だ。 選別札を見ると、5000カロンで、購入するなら50,000ディナリとなることが判る。 大きさは、腕飾りには少し大きいようだったが、持ち運べないこともない。 「わたくし、これがいいですわ!」 カリが突然声を上げ、イズラが(そば)に寄ると、カリはその石をしっかり握って、けして譲らないぞとイズラを睨むように見るのだった。 そんなカリの様子は初めてで、イズラは驚くと同時にかわいいなと思ってしまった。 「でもカリ、腕飾りにはちょっと大きいんじゃ…」 「わたくし、これがいいんですわ…!」 そう言って聞かず、イズラはなんだか嬉しくなって頷いてしまった。 料金は支払うと言うカリを止めて、イズラは50,000ディナリを支払い、ふたつ分の個人所有証明書を持って選別場を出た。 「よろしかったんですの?わたくしにも払う準備はありましたのに…」 イズラは笑って頷いた。 「そんなに(こだわ)ってくれるのが嬉しかったから。僕に払わせてよ」
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