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序章
時は昭和、戦後復興から落ち着いた時代。
少年と少女は双子の兄妹で、古くから続く名家の生まれだった。
「さあ、お庭の祠にお参りしよう」
実の父親と母親は早くに逝去しており弟の叔父夫婦が2人の親となっていた。
この家は暦月を姓としており卯月から師走を十二御家としていた。
しかし、この家には様々な秘密が存在していた。
それが彼らにも今後不幸として降り注ぐ。
2人はまだ自分たちの運命を知らなかった。
幼い二人は叔父夫婦と十二御家の邸宅の庭にある祠に参拝をした。
それは古くからの習慣であったしその家に生まれ付いたものとしての務めであった。
彼らはまだ知らなかった。自分たちの血に流るる悲劇の宿命を。
籠に入れられ空を飛べぬ蝶は願った
自由に飛べる翼をいつか手に入れたいと
***
「兄様」
妹の少女は兄を見つけそそくさと近寄った。
兄は学ランに同じ烏色の帽子を被り外套を羽織っていた。
「桜、もう用事は済んだのか?」
少女の名はこの季節に舞い散る花と同じ名であった。
今日は四月の共学の高等学校の入学式であった。
この高等学校は華族などの子息女が通う高等学校でみな上品な佇まいをしている。
袴と学ランに身を包んだ男女が花のように学内やその道を行き来していた。
「菊兄様も、もうお帰りになられますか?」
鈴のように響く声で少女は兄に答える。
「嗚呼、僕はもういつでも帰れるよ」
兄は笑顔で答えた。
兄も妹もまるで出来物の人形のように息を止めるほどの端麗な容姿をしていた。
それは道行く学徒が立ち止まり振り返ったり見惚れてしまうほどに。
満開の花霞と兄妹がまるで完璧な一枚絵のように存在していた。
***
私と兄様は双子で、背丈は違えども顔は瓜二つ。
ですが、私と兄様は違う。
兄様はとても綺麗。見た目だけではありません、きっと根本的な、魂のようなものが違うのでしょう。
私よりも慈悲深く笑顔を絶やさず全ての人々に手を差し伸べる兄様。
嗚呼、私は兄様を愛してしまっていました。
兄様は血を分けた兄妹です。この想いは赦されぬこと。
ですが私は兄様をいっその事独り占めにしてしまいたい。
けれどきっとそれは叶わぬ願いです。
きっと兄様は私を置いてどこかへ行ってしまう。
そんな気が、したのです。
それがきっと正しい事。ですが、思いもよらぬ事に
私の願いは歪な形を以って叶ってしまうなどと
その時は考える事もなかったのです。
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