序章

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僕は、うんと小さな子供の頃 妹を嫌っている時期があった。 喘息を患い病弱で妹は常に床に伏せっていた。 仕事の忙しい叔父に変わり叔母と女中たちが妹の看病に徹しているせいで 僕は独りで遊んでいる事が多かった。 だからー魔がさしたのかもしれない。 僕は昼間誰もいない時間を見計らい妹の部屋に忍び込むと 何を考えていたのか、寝静まっていた妹の首を両手で締めあげた。 ごほごほ、という咳込みが聞こえると 僕は思わずその両手を離した。 「…あに様?」 か弱く人形のように可愛らしい少女は目を覚ますと僕をじっと見つめてきた。 僕は何も言わなかった。お前の事が大嫌いだから 独りで寂しい思いをさせられたから首を絞めてやったのだと。 その時は一言も言わず妹の様子を見た。 恐ろしいほどに似ている双子の妹。首を絞めてしまった事実も恐ろしくなり ただ見つめる事しかできなかったというのが正しかった。 「遊びに来てくださったんですか…嬉しい」 しかし妹は苦しそうではあったが無邪気な笑顔を浮かべていた。 寂しさに耐えかねて、幼い僕は憎しみに妹の首を絞めた。 だが、彼女は嬉しそうにしていた。 何も知らず、しかし、滅多に顔を合わせない僕に嬉しいと微笑む妹。 僕はこの瞬間、彼女をとても愛らしいと思った。 「…きっと良くなるから、元気になったら一緒に遊ぼう」 僕は妹の頭を撫でてやった。 涙が出てきた。自分はなんて愚かな事をしたのだろうと。 そうすると妹はまた咳込みながらも嬉しそうにしていた。 その後僕の話通りに妹は体が丈夫になり一緒に外で遊ぶようになった。 自分の過ちと共に彼女の事を大切にしてやろうと強く思うようになった。
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