第 2 章 驚き桃の木山椒の木 

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片丘若咲が転校してきた日のことは今でも鮮明に憶えている。 中学二年生の四月。 黒板の前に立つ若咲の全身の姿。 まるでテレビドラマの回想シーンのようにぼやけて見えた。 若咲がぼやけていたんじゃない。 彼女だけはくっきりと浮き上がり、その周辺全体がオブラートに包まれたようにぼんやんりとしていた。 女子らが着てる野暮ったい制服と違う服を着ていたせいなのかもしれない。 制服が間に合わず、前の中学の制服を着てきたのだろう。 「片丘若咲です。よろしくお願いします」 はにかんだ下向き加減の顔をゆっくりと上げて、消え入りそうな声で挨拶した。 「キエー・・・」 
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