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A.D.2628―少年と猫一匹を乗せた小型旅船「バルキリー」は、辺境の宇宙を旅していた。
ひとつ前の星、双子星―通称ひょうたん星―で聞いた情報を頼りに、次の星に向かってはや5日。すれ違った船は一隻もない。光の粒を散りばめた張りぼての中をただ浮かんでいるようにも思えるほどだった。
「レンジ、起きるのじゃ。目的の惑星が見えたぞい」
暗い寝室に突如現れた光る二点の猫目が、ベッドの上で息を深く吸って寝返りをした主をしっかり捉えていた。ヘッドボードに光る睡眠バイタルはオールグリーンで、主の睡眠は十分なことを示している。
「起きよ、レンジ。星が見えたら起こしてくれと言ったのは誰ぞ?」
「オー……それはてっかい……する。……バルキリーが星に着陸したら、また起こして……く……れ」
ニャー、とため息を吐いた猫のオーは、ヘッドボードの太陽アイコンに前足をかざした。すると、天井にむき出しになったカバーのはずれたランプが擬似太陽光を強烈に発した。
「クッ。もう急に点けるな、老猫が」
枕元には白を基調とし、黒、青、赤、黄色のフラクタル模様に彩られた毛並みの猫がいた。暖かな日差しを浴びて、毛がキラキラ波打っている。
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