10章

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「行方不明者の人数が200人を突破しました」 悲しい報告が土曜日の都心の警視庁内にある鬼人科に響いた。 「昨日の大量腐乱遺体放置事件…奴の儀式の跡以降いまだに消息と住処をつかめていないのか」 彼方はその報告に先日の事件を取り上げる。 足を組みながら机に頬杖をついて苛立たし気にその報告を聞いていた。 卯月紫苑とは上野公園で遭遇して以来全く足取りがつかめていない。 機械だけでなく霊能力的な探索や追尾を行っているのに途中で消息が掴めなくなる。 恐らく強力な結界を張ってその場をやりすごしているのだろう。 「私の追尾を回避するなんて、なんて化物なの、卯月紫苑って。始祖ってすごいのね」 千景が椅子に座ったまま伸びをして呟く。 彼女の札を使った追尾能力は尋常ではない強力さを有していたが 卯月紫苑にだけは通用しなかった。 おそらく千景の霊力とはけた違いの力を持っているとしか説明が付かなかった。 「…あいつは人ひとりをあっさりと蘇生させる事もできる。この世の摂理を容易く歪める事なぞ造作もないだろう」 千景の言葉にはあ…と彼方はため息をついた。 人知を超えた肉体能力を以ってしても必ず紫苑を捕まえる事はできていなかった。 すんでのところで彼はその場からいなくなるのだ。 始祖の生き血を分け与えられた者としてやはり打ち勝つ事はできないのだろうか。 「あ…いい事を思いついた」 突然パソコンとにらめっこをしていた鬼人科所長である裁太郎がぽんと手を打つ。 「那由多をエサにして、紫苑をおびき寄せる作戦はどうだろう?」 詳しく明かされてはいないが紫苑と那由多には何らかの因縁があるらしい。 「…それは明暗かもしれん。早速鷺宮と如月に連絡を取ってみよう」 こうして一かばちかの卯月紫苑捕獲作戦が開始されるのであった。
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