第1章

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「そうそう、日本の交通システムは素晴らしく発達してるそうですね」 「そうですね、東京など大都市は人口が集中していて、交通システムがしっかりしてないと生活が成り立たないんですよ」 「地上の交通と、それに地下鉄もすごくよく整備されてるんでしょう」 「そうですね、東京の地下には何本も地下鉄が走っているんですよ。まるで網の目のようにね。今も新しい路線が工事中です」 「へーっ、そうなんですか。東京の人口は、えーっと、2千万くらいですか」 「そんなに多くはありません。都市部で八百万、周辺部を含めて一千三百万です」 「そうですか。そうすると、郊外へ行く場合、交通はなにを利用するんですか」 「東京の近郊は首都圏と呼ばれてるんですが、JRと数社の私鉄が運行されています」 「通勤の時間帯は殺人的に混むそうですね」 「そう、以前は酷かった。まさに殺人的でしたね。でも、最近はどの会社もフレックスタイムになって混雑もかなり緩和されてきました」 「日本人はなんでもどんどん改良していきますね。この国とは違って」 ネイサンは両手で抱いたブランデーグラスを見つめながら言った。 「資源もなく狭い日本では何でも改善していかないと立ち行かないんですよ」 雅彦はブランデーを嘗めるように呑んで応えた。 「親父は何回も日本へ行っていて、よく日本の話を聞かされるんです」 今度は弟のエリオットが口を開いた。 「そう言えば、社長とは日本で三回お会いしてますね」 雅彦はエリオットのほうへ向きなおって言った。 「親父が言うにはシンカンセンがすごいとか」 「ええ、まあ、便利はいいですけど」 「東京、大阪間は二時間半しかかからないそうですね。しかも朝夕の時間帯にはほぼ五分おきに走っていると聞きました」 「ええ、そのとおりです。よくごぞんじですね」 雅彦はグラスをおき、微笑んで応えた。 「ここの国鉄では考えられないことだ」 エリオットは、ふーっと息をはいて呟いた。 「でも、ここはせちがらくなくていいじゃ ないですか」 「だから今の世界から取り残されているんですよ」 「私なんかはここの落ち着いた雰囲気が羨ましいんですがね」 「この国の産業といえば羊毛に食肉、ワイン それに木材ぐらいしかない。オーストラリア 人からも馬鹿にされる始末なんですよ」 「うーん、そうは言ってもいいものもある じゃないですか。自然は豊かで美しいし」
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