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……あれ?
バスが遠ざかる音を聞きながら、私は一歩二歩進み、また立ち止まる。
“ごめんね”って……。
放心してしまい、危うくバッグを落としそうになったけれど、慌てて指に力を入れて止める。
「……あぁ」
そっか、……フラれた?
「……」
住宅が並ぶ、車通りのさほどない道を、少しずつ歩き始める。
明かりがついている家、ついていない家。
夕飯の匂いがする家もあれば、入浴剤の匂いがしてくる家もある。
私が見ているのは、日が落ちた直後の薄暗い空。
途切れ途切れに連なる雲が、まるで空のひび割れみたいに見える。
割れ目がオレンジ色と群青を混ぜたような濃い色で、私を見下ろしている。
"フラれた"って……、私、さっき自覚したばっかりだし、告白すらしていないのに……。
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