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「ねぇ」
……が、一歩その場を離れた瞬間、先輩が発した声に足を止めてしまう。
「絵、見てくんない?」
「……」
先輩に横顔を向けていた私は、意外な言葉に向き直る。
……絵を?
「なんでですか?」
「スランプ?」
「なんで本人が疑問形で言うんですか?」
「ハ」
ずっと表情のなかった先輩が、今、初めて笑った。
そのさりげない笑顔に不意をつかれた私は、無防備にも胸を射抜かれる。
ほら、これだから。
……これだから、会っちゃいけないんだ。
やっと薄れかけていた気持ちが、一瞬で舞い戻ってしまう。
すべて、水の泡になってしまう。
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