259人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……」
舞川さん……だ。
「沙希ちゃんには……言わないでください」
かろうじて聞こえた彼女のか細い声。
不意に出された自分の名前に、私は息が止まった気がした。
何も言わない桐谷先輩。
彼は、舞川さんに密着されたまま、伏せていた目をゆっくりと上げる。
「……」
「……」
あ。
……合ってしまった。
……目。
一番最初の出会いを思い出すシチュエーション。
少したれた気だるそうな目が、これといって動じもせずに私を見つめている。
……あ……えっと……、とりあえず、この場をは、離れなきゃ……。
「うん」
――え?
ドクン、と心臓が跳ねた。
桐谷先輩が、返事をした。
さっきの舞川さんの言葉に。
……私がここで覗いているのを分かっていて……。
最初のコメントを投稿しよう!