8

24/40
259人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……っ」 状況を頭の中では把握できても、心の中ではうまく呑み込めないまま、私は一歩後ずさり、そのまま音をさせないようにして美術室のドアへと向かった。 こんなところまで、最初の時とおんなじ。 でも、あの時はここまで動悸は激しくなかった。 ゆっくりとドアを閉めて廊下へ出た私は、口を押さえて早足で教室へと向かう。 イヤだ。 ……イヤだ。 なんで……。 黒くて汚い気持ちが、胸の中でモクモクと大きくなり、飽和状態で口から溢れそうになる。 「なんでっ……」 フラれた、って言ってたのに、嘘だったの?  私に言わないで、ってなに?  桐谷先輩も、部活の子には手を出さないって言ってて、実際は……。 「……っ」 嘘ばっかり。 ポロッと涙の粒が落ちた。ひと粒だけ。 私はきゅっと下唇を噛み、それ以上出ないようにこらえた。      
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!