仮想世界の箱庭へ

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「残念ながらハルカは今日は部活だ」  セツナは学年一の美少女、ともっぱら評判の幼馴染の顔を思い出しながら答える。  ハルカは赤みの強い茶髪を伸ばした少女で、それはもう外見に恵まれている。それこそケントに匹敵する外見偏差値の所有者であり、彼女がファンタジー衣装を着込めばそれはもう見栄えがしただろうが、残念ながら今日は部活で忙しい。 「部活か……ならしゃーねーな」 「そうだね。ハルカさんは責任感が強いから抜けてくるのも難しいだろうし」  そう言って頷き合うシグレとケント。いくら新機軸のゲームを体験できるといえど遊びは遊び。部活とどちらが優先かは言うまでもない。残念だが、彼女は諦めるべきだろう。 「そういうシグレのお隣さんは?」  今度はセツナがシグレに尋ねた。 「ああ、あの脳筋女なら――」 『待ちなさいそこのオレンジと藍色! 昨日隣の高校生と喧嘩した件について白状すれば反省文と説教で許してあげるわ!』 『くっそ、このバカルマ! お前が連中の喧嘩買うからこんなことになってんだぞ! 何とかしろ!』 『無茶言うなトーリ! あの女相手にかなうわけねえだろ!』 『隙ありっ!』 『『うおおおおおっ、あぶねえええー!』』 「――風紀委員の仕事で忙しいってよ」 「相変わらずリッカは凄いな……」  タイミングよく廊下を駆け抜けていった男子生徒二人と、竹刀片手にそれを追う女子生徒の足音が遠ざかっていくのを聞きながらセツナは呆れ半分の声で応じた。  シグレの幼馴染、橘リッカは風紀委員長を務める才女だ。  見た目は凛とした美人で通るのだが、その実喧嘩の堪えない不良たちが裸足で逃げ出すほどの武闘派である。ファンタジー世界に連れて行けばさぞ心強かっただろうが、あの調子では誘っても応じてはくれなさそうだ、という考えがたった今三人に共有された。
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