仮想世界の箱庭へ②

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××× 「で、セツナ。これからどうするよ?」  一通りアイテムの確認が済んだあと、シグレが尋ねる。 「そうだなぁ……ま、とりあえず町長の家に行ってみようか」 「町長の家って言うと、さっきの依頼だね?」  ケントの問いにセツナは頷く。 「ああ。正直言うとせっかくのVRだし、街の外に出て戦闘の一つでもしてみたいとこなんだが、それは先に依頼を受けてからでもいいと思ってさ」 「せ、戦闘って戦うってことですか? わ、私怖いのはちょっと……」  セツナの台詞にミアが腰の引けたような口調で言うが、セツナやシグレはそれをあっさりと笑い飛ばした。 「大丈夫、ここはあくまでゲームの中だからな。ダメージ受けても痛みは感じない」 「セツナの言う通りだ。この世界ではたとえ刀にぶった切られても痛くもかゆくもねーよ」 「あ、そうなんてですか。それなら少しは安心ーー」 「「多分」」 「――できませんでした! そこは断言していただきたかったのですが!」  絶叫するミアだったが、何しろセツナもシグレもこの空間に足を踏み入れるのは初めてなのだ。仮想空間での戦闘など、それこそこのゲームの製作者くらいしか体験したことがないだろう。断言しろというほうが無茶だ。 「でも、戦闘って言われると僕もちょっと緊張するなあ……」 「ケントまで何言ってるんだよ。大丈夫、絶対楽しいって」  そう。セツナは今までその手の創作物をさんざん嗜んできたのだ。  現実には存在しない凶悪なモンスターとの戦闘ほど手に汗握るものはない。 「ま、気にすんなイケメン。すくなくとも街中でバトルなんかねーだろうし、今は町長に会うこと優先――っと?」  そこまで言って、シグレの声が不自然に途切れる。  大通りの真ん中でいつまでも話していたせいか、通行人の住人とぶつかってしまったのだ。 「ああ、すみません」 シグレは条件反射的に謝ろうと視線を上げてーー 《街の住人A、B、Cが現れた》 「うおわァァァァァァァ!」  ――ぶつかってきた通行人が繰り出してきた拳を間一髪で回避していた。
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