仮想世界の箱庭へ

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××× 「要するに、『セツナの親父さんが作った新作ゲームのテストプレイをしてくれ』って話か?」 「だいたい合ってる。具体的には、VR……バーチャルリアリティーのゲームな」  セツナの説明を要約したシグレに、セツナが横から注釈する。  VRシステム。仮想世界。つまり、電子情報で構築されたゲーム世界に自分自身の意識を放り込み、自分の体を動かすのとまったく同じようにゲーム内のアバターを操り、その世界を『体験』できるという仕組みのことを指す。 「バーチャルリアリティー……それって普通のゲームとどう違うの?」  と、これはシグレやセツナほどゲームに詳しくないケントの台詞。 「簡単にいえば、『プレイヤーがその世界の中に入って』プレイするゲームだな。コントローラーとテレビがいらないゲーム、って言えばケントにもわかりやすいか?」 「コントローラーとテレビがいらない……」  よくわかっていない顔で瞬きするケントだったが、その横のシグレはもはや呆れ顔に近い表情を浮かべていた。 「……向こう三十年は実現不可能って言われてたのにな。さすが『アルカディア』の技術力ってことか」  『アルカディア』。  セツナの父親、葛城シンジが社長、および研究主任を務めるゲーム制作会社の名だ。  内情は世間にはほとんど知られていないが、セツナが聞いた限りでは社員はたったの五人しかいないらしい。にも関わらずあらゆる勢力を出し抜いてVRシステムを作り上げたのは、ひとえにそれら五人ーー特にセツナの実の父親である葛城シンジが『天才』だったからに他ならない。  父親を褒められて嬉しいらしくセツナは少しだけ得意げに言う。 「ま、そういうことだな。シグレはゲームとか好きだろ?」 「ああ、しかもVRをフライングで体験できるなんて夢みてーだ……! 2ちゃんで『VR体験してきた俺に何か質問ある?』とかスレ立てたらお祭り騒ぎになるぜ」 「にちゃん?」 「しかも期待していいぞ。ジャンルはなんとファンタジー系のロープレだ」 「おおっ! そりゃ楽しみだな!」 「ろーぷれ?」  いつの間にかセツナとシグレの会話にケントが置いてけぼりを食らっていた。
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