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佇んだままの私は、先輩の心の内を知りたい一心で、ためらう唇を開ける。
「……こんな感じのままがいいって言ってた。この関係を壊したくないって」
「うん。あの時の本音」
「軽い気持ちで手は出さないって言ってたのに」
なんの涙かわからない涙を目の際に感じながら、私は顎にシワを寄せて呟く。
先輩はうなじに手を当てて首を傾けたまま、
「軽い気持ちじゃなくなったからじゃない?」
と、まるで他人事のように言った。
しばしの沈黙に包まれる中、先輩の視線と私の視線が、変な緊迫感を持って交錯する。
「つーか、初めて」
「……」
「自分からしたの」
「……」
なにそれ。
そんなこと言われても信じられない。
そう思うのにも関わらず、彼の“特別”じゃなくなってしまったと決め込んでいたキスに、いくつもの“特別”が付加されていって、じわじわと目頭が熱くなっていく。
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