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「……ごめん」 「諦めようとしても、そっちの都合でちょっかいだしたり優しくしたりして、諦めさせてくれなかったくせに」 「ごめん」 またごめんばかり返す先輩の胸に、緩く結んだこぶしの腹をポスンと打ち付ける。 今までの苦しさが甦ってきて、それが涙となってひと粒、私のスカートの上に落ちた。 「私ばっかり、こんな」 先輩の余裕そうな態度に歯がゆさでいっぱいになった私は、唇を歪めて「……こんな」と繰り返した。 そうしたら、前屈みの先輩のシャツに食い込んだ私の手がそっと掴まれて、それにつられるかのように私は顔をゆっくりと上げた。 下睫毛に乗っていた玉のような涙が、重力の変化でひと筋の水の線を私の頬に作る。 緩やかな一瞬の連続の途中で、傾けられた桐谷先輩の唇が私の唇に重なった。
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