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「……」 一度離れたそれは、また隙間を辿るように戻ってきて、同じ角度で優しく押し当てられる。 私は頭を固定されているわけではないのに、その驚くほどスローな行為に微動だにできず、ただただ目を見開いていた。 「……だからごめん。やっぱ好きみたい」 先輩は、微笑んでいるのか真面目なのか読めないような表情で、でもしっかり私の目を覗き込んでそう言った。 照明のついていない美術室は気付けば薄暗さを纏い始めていて、先輩の顔もその影の色に近くなってきているのがわかった。 「……そ」 そんな言い方したって、私はっ……、私は…………。 言い返したい気持ちは声にならないまま、私はただただ魚のように口をパクパクさせた。 その間にも顔がどんどん熱くなり、この薄暗さの中でもはっきりとわかるくらいに赤みを増していく。
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